2023年度卒業論文発表会を行いました




プログラム


日時:2024年1月31日 13:30-17:00

場所:明治大学中野キャンパス311教室


13:30-13:40 開会挨拶

13:40-14:00 台パンの音情報差し替えによる不快感の低減及びゲームパフォーマンスの影響(池谷悠杏)

14:00-14:20 言葉がけボタン:ネガティブ発言への対処方法の提案(今川毅人)

14:20-14:40 プレゼンにおけるフィラーの機能に関する調査(阪上祥貴)

14:40-15:00 足跡提示が人の行動や解釈に与える影響の調査(根岸彩香)

15:00-15:20 休憩

15:20-15:40 屋内施設における回り忘れに関する調査とその解決手法の検討(長谷川理緒)

15:40-16:00 疑似巻き戻し機能による対面授業の理解度向上支援(松丸凱)

16:00-16:20 鏡越しコミュニケーションにおける話しやすさの調査(宮田瑛心)

16:20-17:00 懇談会


池谷悠杏:台パンの音情報差し替えによる不快感の低減及びゲームパフォーマンスの影響


概要

コロナ禍の影響で外出に制限がかけられ,家でも友達と繋がれるオンラインゲームの普及が加速した.それに伴い,ゲームプレイ中の通話などのコミュニケーションサービスが発達した.このようなサービスがもつ問題として,ゲームで抱えたストレスを「吐き出す」ための言動・行動が相手に伝わり,不快に感じさせることがあげられる.本研究では,その中でも「台パン」という行為に注目し,不快感を低減・解消するために,台パンの特徴である叩いた時に発生する音情報を別の音情報に差し替えるシステムを提案する.本論文では,そのシステムの有効性を確かめるために行った予備調査と実験,そしてその結果及び考察について報告する.


今川毅人:言葉がけボタン:ネガティブ発言への対処方法の提案


概要

ネガティブ発言が存在する場に居合わせた人のパフォーマンスが低下することが知られている.ネガティブ発言によるパフォーマンス低下を防ぐ方法の1つとして,居合わせた人同士で言葉をかけ合い,励ますことが考えられる.しかし,ネガティブ発言者が存在する中,居合わせた人同士が励ましの言葉がけを行うことは心理的ハードルが高いことが予備調査により明らかになった.したがって,ネガティブ発言者がいる中でも気楽に言葉がけを行うための支援が必要である.そこで,ネガティブ発言を第三者視点で見聞きした人同士の言葉がけ合いを支援するためのシステムとして「言葉がけボタン」を提案する.本論文では,「言葉がけボタン」の有効性を明らかにすべく実施する実験と調査について報告する.


阪上祥貴:プレゼンにおけるフィラーの機能に関する調査


概要

「えーと」や「あのー」などのフィラーは,発話において特定の意味を持たない言い淀みを指す.フィラーはコミュニケーションの円滑化に貢献していることが知られている.しかし,プレゼンテーションなどの信頼性や説得力が求められる場面におけるフィラーの乱用は話者の信頼性を低下させ,聴衆による内容の理解を妨げるなど悪影響を与えることが考えられている.そこで本研究では,フィラーを減少させつつ発表者と聴衆の双方に有益な発表を行うため,プレゼンテーションにおけるフィラーの効果に関する調査を実施した.調査の結果,プレゼンテーションにおけるフィラーは発表者に準備不足感や集中力の欠如などの悪印象を与え,聴衆に対する円滑な情報伝達に悪影響を与える可能性が示唆された.一方で,フィラーには話者の思考の整理を支援するなど,発表者に有益な効果を持つ可能性が示唆された.これらのことから,発表者にフィラーの代替手段を提示することでフィラーの制限を支援し,フィラーを減少させつつ発表者と聴衆の双方に有益な発表を行うことができると期待する.本稿では,プレゼンテーションにおけるフィラーの効果の調査結果の報告と,それに基づくフィラーの代替手段の提案を行う.


根岸彩香:足跡提示が人の行動や解釈に与える影響の調査


概要

足跡は,人が歩いた痕跡として自然に残るものである.その足跡は後にそれを見た人に様々な影響を与える可能性がある.例えば,山道に残された足跡は,それを発見した人に以前その場所を歩いていた誰かの存在を感じさせる.また,足跡が多ければその場所は人気であったと感じたり,逆に少ない場所は人気がなかったと感じたりすることがある.このように,足跡は視覚的には少ない情報量にもかかわらず,その場所の情景や人の行動などの多くの情報量を持ち,その場所での物語を想起させる.このような足跡は痕跡として自然と残るものであるが,これを意図的に活用する事例はほとんど存在しない.一方で,足跡マークのように,レジ前など立ち位置を指定するサインとしては多く活用されている.しかし,これは足跡が本来持つ情報を活用したものではない.本研究では,「人が歩いた跡」を意図的に活用することを目指す.そのために,まず,大学のオープンキャンパスにて様々な配置で簡易的に足跡を設置することで,足跡が人の行動や解釈に与える影響を観察した.観察の結果,設置された足跡によって過半数の人が好奇心を持って誘導されるなど多くの人の行動に影響を及ぼした一方で,「仕掛けられているように感じる」「誘導されているように感じる」など「人が歩いた跡」とは異なる解釈がされた.そこで実際の足跡を記録して表示することで「人が歩いた跡」と感じ,かつ,本来の足跡が持つ情報を表す足跡の表現を考えた.そしてその足跡を実際に提示することで,提示した足跡に対する解釈や,人の行動・選択にどのような影響があるかについて調査を行った.


長谷川理緒:屋内施設における回り忘れに関する調査とその解決手法の検討


概要

博物館やショッピングモールなど順路が決まっておらず自由に動き回ることが出来る広い施設で,複数の目的地を回りたいとき,実際に回り切れているのかわからなくなってしまうことがある.このような問題が起こりやすい施設の条件として「初めて訪れる場所」「回る経路が決まっていない」「複数の部屋が存在している階層構造の施設」という要素を想定した.本研究ではアンケート調査によってそれを確かめると同時に,回り忘れの問題を解決する方法を提案する.本稿では,回り忘れ問題解決のための手法の検討と,方法選定のための実験を行う.また,この問題が発生する施設の状況を明確にするため,回り忘れをしやすい人の特徴を調査するアンケートを行った.その結果と考察を報告する.


松丸凱:擬似巻き戻し機能による対面授業の理解度向上支援


概要

昨今の新型コロナウイルスの影響により,多くの大学でオンラインでの授業形態が採用された.オンライン授業の一種であるオンデマンド型の授業では,対面での授業とは異なり,授業内容を巻き戻し繰り返し視聴することができるという特性があり,この巻き戻し機能は理解度の向上に貢献していると考えた.本研究は,この機能を対面授業環境下で疑似的に再現する手法を提案することを目的としている.本論文では巻き戻し機能の存在が理解度の向上に貢献しているか,予備調査を通して確認した.その後,授業を受けている際の受講者の理解度推移を測定する予備調査を行い,その結果を用いて,講義中の受講者の「もう一度聞きたい」度合いが高まった際に,再説明が行われるシステムを提案する.また,提案システムについての議論とそれを用いた評価実験の結果および考察をシステム機能,有用性の検討,システムの改良点の観点から報告する.


宮田瑛心:鏡越しコミュニケーションにおける話しやすさの調査


概要

私たちは日常で鏡越しにコミュニケーションを取ることがある.美容院で美容師と会話をした経験より,対面で会話をするよりも,鏡越しに会話をする方が話しやすいと考えた.鏡越しのコミュニケーションは対面のコミュニケーションと比較して,視線を向ける場所や見える範囲が異なる.このことから著者は,鏡を使用することでコミュニケーションを取りやすくなるのではないかと考えた.本稿では,視線計測による話しやすさの調査結果の報告と,それに基づく鏡越しの会話と対面の会話における違いを考察する.


卒論発表会を終えて


我々は緊張と期待を胸に演台に立った.最初で最後の卒業論文発表会に臨む姿は,一つの旅立ちへの準備が整った証でもあった.多くの聴衆が今かと発表を待ちわびる中,舞台裏では発表に向けて入念な最終チェックが行われていた.ある者は用意した台本を何度も読み返す.またある者は夜を徹してまで資料を作りこむ.それは自身の研究に誇りを持ち,それを最良の形で披露する姿勢の表れであった.発表が始まると緊張が教室に広がる.しかし,たとえ緊張で話す速度が速くなっても,たとえ台本を飛ばして焦ってしまっても,我々は自信と胸を張って研究を語り,聴衆を引き込んでいった.そして,2年間にわたる我々の集大成が報われ,賞賛されたことを物語った拍手が送られた.一方で,お互いの研究に興味津々で質問や意見を交わす様子が見られた.卒業論文発表会は,我々にとってだけでなく,教授や先輩,更には未来の小林研の後輩達にとっても有意義な時間となった.新たな知識の創出と共有,そして小林研での成長と努力が,一つの場で花びらいた瞬間であった.我々はこの経験を胸に,新たな一歩を踏み出す門出の日を迎えた.長きに渡りご指導いただいた「小林研究室」に,感謝します.